腎移植
腎臓の働きが大きく低下した「末期腎不全」の治療法には、大きく分けて2つの選択肢があります。ひとつは、人工的に腎臓の働きを補う「透析治療」です。透析には「血液透析」と「腹膜透析」の2つの方法がありますが、いずれも本来の腎臓のすべての機能を完全には補えません。定期的な通院や治療にかかる時間、食事や水分の制限など、生活に様々な制約が伴います。
もうひとつは、健康な腎臓を移植する「腎移植」です。腎移植は、透析に比べて生活の質(QOL)が大きく改善されるだけでなく、長期的な生存率も明らかに高くなることが国内外の研究からも示されています。特に、透析を始める前に腎移植を行う「先行的腎移植」では、さらに良好な成績が得られることがわかっており、近年では積極的に推奨されています。
近年、透析治療を受ける患者さんの数は緩やかに減少傾向にあり、その背景には腎移植の普及や、生活習慣病の予防?管理が進んできたこともあります。ただし、腎移植を受けた後は、拒絶反応を防ぐために、生涯にわたって免疫抑制剤を飲み続ける必要があります。薬の管理や定期的な通院なども重要であり、患者さんご自身とご家族の理解?協力が欠かせません。
腎移植の適応
末期腎不全で腎移植を希望される方すべてが対象となりますが、全身麻酔や手術、術後の免疫抑制薬の使用において問題がない方が適応となります。
腎移植の種類
腎移植には「生体腎移植」と「献腎移植」の2つがあります。
1:献腎移植
亡くなられた方の腎臓を提供して頂く移植です。献腎移植には心臓死からの移植と脳死からの移植があります。献腎移植を受けるためには日本臓器移植ネットワークに献腎移植の登録を行います。腎臓の提供があった場合には、血液型や組織の適合度などを調べ、それが高く、登録点数の高い方に移植されます。提供や移植の現状、実際の登録等に関して、詳しくは日本臓器移植ネットワークのホームページを参照してください。
2:生体腎移植
提供者(ドナー)は医学的?倫理的に問題がなければ、誰でもなることができますが、日本移植学会の倫理指針により親族に限定されており、血縁者(両親?兄弟姉妹?子供など6新等以内の血族)、または配偶者と3親等以内の姻族が対象となります。これまでは親子間での移植が大部分を占めていましたが、様々な免疫抑制療法の発展により、遺伝的に関連のない夫婦間や血液型合っていない提供者からの腎移植も増加しております。
実際の腎移植
献腎移植の場合は、腎臓の提供が決まれば緊急入院となり、すぐに腎移植手術を行います。
生体腎移植の場合は、腎移植を受けられる方(レシピエント)は手術の1-2週間前に入院し、必要な検査や処置を行います。手術後問題なければ2-3週間で退院となります。生体腎移植の腎提供をされる方(ドナー)は、手術の1日前に入院し、手術後は1週間程度で退院となります。移植腎提供の手術において、当院では、すべてのドナー手術を腹腔鏡手術で実施しており、開腹手術は行っていません。これにより術後の回復が早く、合併症を軽減できます。当科における腎移植手術件数は増加傾向であり、生存率、生着率ともに他施設とも遜色ない良好な成績を収めております。
腎移植後の生活
移植後3ヵ月頃までは移植した腎臓に対する拒絶反応の可能性が比較的高いため、免疫抑制薬の量も多く、1-2週間毎の外来受診が必要となります。移植後3か月以降は、拒絶反応や感染症がなければ、腎機能が安定し、免疫抑制薬の量もある程度減らすことができ、生活の制限もほとんどなくなります。当院では移植後の状態が安定している場合でも、3ヵ月後、1年後、3年後に数日間入院していただき、移植した腎臓の生検(組織採取)などの定期的な検査をしています。これにより拒絶反応や他の合併症の早期発見ができます。
腎移植を希望される方、詳しく知りたい方は当院泌尿器科または腎臓内科の移植外来を受診していただきます。かかりつけ医や透析施設から紹介していただくか、直接当院に連絡していただければ対応させていただきます。